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​「藝人春秋Diary」刊行に向けて

 2021年6月9日(日曜)改記

 はじめまして、浅草キッドの水道橋博士です。

 ボクは現在58歳になる、たけし軍団&オフィス北野改めTAPに所属する老いぼれタレントです。

 ネット関連の活動では日本最大規模のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』を主宰しています。

 noteは長く他人のものは読んでいましたが、老人なので仕組みがわからないまま参入していませんでした。

 しかし、活字には大変思い入れのある方なので、より多くの人に読んでもらいたく2021年からボクも活用させていただくことになりました。
 
 以下に『メルマ旬報』でクリスマスに綴った記事を再録します。

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 12月24日──。
 メリー・クリスマス!!

 コロナ禍で大変な1年だった。
 しかし、個人的なことだが希望がないわけではない。
 来年に『藝人春秋2』上下巻が文庫化され、2月9日に上巻、3月9日に下巻、文藝春秋から出版される。
 それを機に来年は『週刊文春』に連載していた『藝人春秋Diary』を単行本化したいのでどうしても書いておきたい幾つかのことを綴ります。

 新たに出版しようと意気込んだ『藝人春秋Diary』は全3冊になると構想したのだが、この出版不況のなか、そこはさすがに出版元の文藝春秋でも難しいとのこと。

 今は文藝春秋で電子書籍3巻を書き下ろし、そのアンソロジーとして一冊にするか、はたまたある程度原稿を組み直し、上下巻にするか。

 あるいは、思い切って3冊を出してくれる、新しい版元を探すのか迷っています。

 noteでは、その新たなる編集者、出版社との出会いを期待しています。

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 自著の『藝人春秋』シリーズを振り返る。

 今まで知らない人には知ってほしいのです。

 2012年に上梓した『藝人春秋』の単行本の1作目を紹介します。

 この本は、ボクが「芸能界に潜入したルポライター」であるという設定で過去10年に渡って様々な媒体に書いた芸人観察記をかき集め、一冊に編みました。

​ テーマは芸能界を「この世のようなものとは思えぬあの世」と喩え、彼岸と此岸を行き交う芸能者の死生観を問いました。

「東国原英夫、石倉三郎、草野仁、古館伊知郎、三又又三、堀江貴文、湯浅卓、苫米地英人、テリー伊藤、ポール牧、甲本ヒロト、爆笑問題、稲川淳二、松本人志、北野武、児玉清」と多士済々の登場人物をレポートしました。

 正直、この本は売れました。
 重版に次ぐ重版が続くと、身に余る言葉でかつてないほどの書評という褒章を受けました。
 2015年に文庫化され、解説をオードリーの若林正恭くんが寄稿、文庫ボーナストラックに「2013年の有吉弘行」を加えました。

 この文庫もまたよく売れてくれました。

 (しかし、今は絶版で、近い将来重版の予定もなく、Kindle版のみになったそうです。本棚に「2」と「3」を並べながら、最も評判の良い「1」を置いていないというシリーズものの展開ってあるでしょうか?)

 

『藝人春秋』のヒットを受けて、2013年から敏腕・新谷学編集長から直々にスカウトされて『週刊文春』に見開き2頁(16文字×176行=2816字)に連載を持っことになりました。

 かの『週刊文春』に連載を持つなど、ライター・書き手としては夢の実現です。
 『週刊藝人春秋』のタイトルで1年間限定のコラムエッセー(便宜上「シーズン1」と呼称する)を綴りました。

 挿絵には巨匠・江口寿史さんをダメ元で指名し、江口先生が快く受けてくれたのも感激でした。
 第一回目から、当時、ルポライター佐野眞一氏による『橋下徹・週刊朝日事件』が勃発し、週刊誌で扱うのはタブー視されていた橋下徹大阪市長を題材に取り上げ、以降、『週刊文春』らしく政治問題を含む、時事ネタを随時盛り込みました。

 第一回目で橋下徹を選んだからこそ、その後、ボクが橋下徹と共演した大阪のたかじんさんの番組『たかじんNOマネー』で、ボクの生放送降板事件が起きることも必然的なことでした。

 

 文春砲として名高い『週刊文春』の文章には伝統があります。

 スキャンダルとジャーナリズムの二重奏、及び「文藝」と「春秋」(年表・史書)の二重奏、という構図は強く意識して書きました。

 連載終了後、3年を経て、2017年上梓の2作目の単行本『藝人春秋2』は、この連載原稿を下敷きにして、大幅に書き改め、ボクは「芸能界に潜入した秘密諜報機関のスパイ」という大仰な設定で上下巻の活劇として大冊を著しました。

 しかし、単行本で上下巻、合わせて700頁超えは確かに無謀なことではありました。

 正直、売れませんでした。
 重版がかかることはなかったし、書評も一作目に比べて数少なかったのですが、当の本人としては「書き手としては進化している」と自覚もありましたし、長期に渡る取材、執筆期間も経て「よく書き終えた!」と作品の出来栄えそのものにも自己満足していました。

 この物語の通奏低音はサブタイトルの上巻「博士より愛を込めて」、下巻「死ぬのは奴らだ」で分かる通り、映画の『007』シリーズでした。

 上下巻の上巻はフリ、下巻はオチで謎解きになるよう構成しましたが、ライトエッセーと呼ぶにはあまりにも重層な冒険譚であり、実在する黒幕への告発メッセージもありました。

 正直、名誉毀損の訴訟リスクもある題材であったので、編集担当と時間を掛けてウラトリを徹底したルポライティングの手法を取り、毎日、4時間睡眠で不眠不休で完成させました。

 今、振り返れば、ミュージシャンがデビューアルバムが当たり、その高揚感から創作意欲旺盛に、よりテクニカルに、もっと褒められたいと曲目を増やして2枚組を作るようなものです。

 しかし、そういうのは、たいがいセールスでコケます。

 そして、この上下巻が、2021年の2月、3月に発売になる文庫化で、上巻は『藝人春秋2』(解説/ダースレイダー)、下巻は『藝人春秋3』(解説/町山智浩)と題してナンバリングを単行本から変えました。

 

 これで、またやる気スイッチが入りました。

 それならば、シーズン2の連載を元に2021年内に3作の『藝人春秋』を文庫オリジナルとして書き下ろし、一気に6巻まで増やして、シリーズそのもののボリューム感を出したい! と文庫の編集担当者に提案しました。

 しかし、週刊連載の原稿は文庫版とは別班なので、まずは単行本からスタートして欲しい旨。

 そして、年末の打ち合わせは冒頭書いたとおり「3冊は確約できません」とのことでした。

 予想通りですが、厳しい現実を突きつけられました。

 ボクの文章は読んでくれる読者、固定層はいます。
 しかし、多くは年配の男性であり、しかも、ボクと共に老いていく関係です。
 今、必要なのは若い、新しい読者だと思っています。

 『メルマ旬報』もまた、創刊以来、紆余曲折ありながら、読者が減り続けている媒体です。
 今年は、副編集長の原カントくんと何度も作戦会議を開きました。
 執筆者で新規読者を増やすことに日頃から意識的な人は極少数です。
 だったら「オマエが編集長なんだから、額に汗して自らやれよ!」の一言しかないのです。

 

 だから、こうして書いています!


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 さきほど書いたように、ボクが1年で「3冊を書き下ろす」と豪語する、そのための叩き台は既にあります。

 それは、2017年に、この『藝人春秋2』上下巻の出版と同時に5月から『週刊文春』に連載再開した「シーズン2」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 「シーズン1」との大きな変更点は題名を『週刊藝人春秋』から『週刊藝人春秋Diary』とDiaryを加えて、改めたことです。

 今回も週刊誌らしく時事ネタを拾いつつも、過去にボクが体験した出来事に遡り、細かく日付を打ちながら、一年強、全60週分を書き綴っています。

 それでも、そのまま単行本化は宙に浮いたままなのです。


 昨年の体調不良で書籍化を躊躇い、時を経るうちに出版のタイミングを逃し、書いているものは時事ネタが多いのでタイムラグは広がっていきました。

 さて、この連載の副題に「Diary」を付けたのは、ボクには日記に執着があるからです。

 ボクは小学校2年の時から長く日記を書き残しています。
 1997年からはホームページ日記、今で言うところのブログ形式で1年365日を20年以上の日々を世間に晒しています。

(2018年の休養で、今では一般公開はストップしてしまったが……2021年の元旦から再開しています。そして今はlivedoorのblogから、Amebloに8000日の日記と共に移籍しました。)

 それ故、日付のみならず、人生の大半の日々の行動と感受を文字記録で振り返ることが出来ます。

 つまり日記にはボクの「情熱」と「業」が詰まっています。

 この言葉は昭和の浅草喜劇の大先輩にして「日記芸人」の鼻祖、古川ロッパ先生の引用です。

 「エノケン・ロッパ」と謳われた全盛期は、今からおおよそ70〜80年も昔のことです。

 ロッパは明治36年に生まれで昭和36年に57歳で没しているので、昭和37年生まれのボクは、その活躍を見たことがありません。 

 1910年代が全盛期の喜劇人の現存する映像も少なく同時代を生きた人も年々と限られていきます。
 多くの人は、この浅草軽演劇の2大看板であった頃を知らないはずですが、『古川ロッパ昭和日記』全4巻(晶文社)の大著は現代にも読書家には読み継がれています。

 ロッパの日記魔ぶりは、昭和9年から昭和36年の分でも当用日記10冊と大学ノート95冊にもおよび、昭和20年以降は一日分が大学ノートに2~4頁、万年筆を裏返しに使った細かい字でびっしりと記され一日たりと付け落ちた日がないと言われています。

 日記の総量は400字詰め原稿用紙3万枚以上!

 ロッパは、もともと早稲田の学生時代に文藝春秋を創立した菊池寛に招かれ『映画時代』の編集者になりキャリアをスタートさせています。
 その後、形態模写の腕を買われて30歳を超えて、舞台に立つ喜劇人としてデビューします。
 同業の喜劇人の他、谷崎純一郎などの文学者、菊田一夫などの劇作家、戦前、戦中の政治家など次々と登場する多士済々の人物の月旦評、芸人の心象風景、新宿や浅草の風俗や興行街の舞台裏やら、すべてが貴重なる昭和芸能史です。

 ロッパは、50代の下り坂、病を患いながらも自身の不幸への唏き、成功者への妬み嫉みを隠さず、迫りくる人生の幕引きを日記に刻んでいきました。
 それは表舞台の芸人の裏側、死生観そのものです。
 そもそも個々の日記が有する世界観とは、まさに誰もが「人生は舞台、貴方が主役」なのです。

 ロッパの日記は、まるで知られざる『藝人春秋エピソード0』であり、読んでいると幻影のように揺蕩(たゆた)う「昭和」という時代が輪郭を持ったロッパ主演の舞台のように浮かびあがってきます。

 この本に倣い、ボクも50代の下り坂をロッパを憑依させて『藝人春秋』をnoteに延々と書き継ぐことに決めました。

 登場人物は従来どおりジャンルは藝能界とは括っていませんが、皆、表舞台に登場する人々たちです。

 それはまるで古川ロッパの日記に出入りする多士済々のように。

 『藝人春秋』は生来の人見知りのボクが「出会いに照れない」の座右の銘を言い聞かせながら、日付を残した交遊録です。

 そしてボクの「Diary」とは、失われた時の儚い「Memory」であり、未来永劫に残す「History」だと思っています。

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 と高らかに出版宣言をしながら、今、グラスに波々と注がれたテキーラをきこしめしながら、来る新年(2021年)へのチャレンジを言い聞かしています。

 次作をお手軽なビジネス書や、勝ち組の自慢気な成功譚にするつもりはありません。

 今の世の不公平や、金が優先する風潮、組織的な闇や隠蔽に対して、告発ではなく、文章と諧謔で光を当てたいと思います。

 勝ち続ける方法ばかりを主張して、不本意にも負けていく人を自己責任の落伍者と切り捨てるような文化を決して認めたくないのです。

 勇ましい勝者が一瞬に光る本ではなく、弱き人を介抱をする。

 例え、自分が一生燻り続けるとしても、後世に残る本を作りたいのです。

「実験思考 世の中、すべては実験」

 まずは、この『藝人春秋Diary』単行本化希望原稿。
 こちらを「よりぬきハカセさん」として、新年に向け、7日連続無料で公開する実験を試すことにした。

 もし、そこで好評なら、その連載を伸ばしていきます。

 共に仕事をする人、そして、まだ見ぬ新しい読者を募りたいのです。
 是非、ボクの文章を読んでください。

 そして、プロの編集者の方、ボクと一緒に本を作りませんか?
 原稿は既にあります。

 まずはフォローしてください。

                    2020年12月30日 

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 そして、5ヶ月間、その後の話を加えた「藝人春秋Diary」の2021年版をnoteに休むことなく書き続け、全50回を書き終えました。

 更には自ら原稿を持って出版社を巡り、ようやく、このほど「スモール出版」で『藝人春秋Diary』の出版が決定しました。

 燃えています!

 読者よ! 
 9月に予定する上梓の日をお楽しみに!!

                    (2021年6月9日 改)

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