
インタビュー
還暦間近59歳の水道橋博士が「異常な執念」で本を出し続けられる理由
【連載】藝人春秋FINDERS(1)
2021/10/01
このたび、『藝人春秋FINDERS』を新連載する、浅草キッドの水道橋博士です。
ボク自身の活字連載のライフワークとして『藝人春秋』シリーズを一つのSAGAとしてタイトルを統括的に使っているので、今回もFINDERS誌のタイトルをMIXして、ボクの芸人生活の中の「発見」を一葉の写真のように切り取りながら、この連載を読む若者の生き方のヒントや「発見」につながる連載にしたいと思います。
第1回目は、ボクの最新巻『藝人春秋Diary』(スモール出版)の出版について。
ボクのタレントの副業である「本業」について、出版業界の裏側と単行本化までの実体験を後進の若いライターの参考になるべく詳しく書き残しておきたいと思います。
原稿発注を待つのではなく、自分から売り込みをかけていく
サブカル主体のフリーライターの多くは歳を重ねると、現場編集者より年上となり、必然的に原稿の発注が無くなってくると言われています。
サブカルの大御所・みうらじゅんさんに言わせれば、「フリーライター=ひとり電通」であるべきであり、長く仕事をするためには、自分が書ける新ジャンルの企画プレゼンを編集部に常に提示し、単発記事ではなく連載枠を新たに勝ち取り、時には出版社社員との飲み食いを自腹で接待することも辞さず、運命共同体であるべき編集者と二人三脚で最終出口の単行本化までの導線を明確にすべきことらしいです。
そこでは作家然として書斎で原稿の発注を待つのではなく、自分から売り込みをかけていくセールスマンの姿勢が必要であると説いています。
『藝人春秋Diary』は10月18日にスモール出版から上梓されるボクの単行本です。
『藝人春秋』の単行本は、10年前に『藝人春秋』、4年前に『藝人春秋2』上下巻が文藝春秋から出ているので、今回の単行本はシリーズ第3刊目に当たります。
梗概は、ボクが主人公・語り部として芸能界を横断的に語る准ノンフィクションの交流禄、月旦評、人物ルポとして書き進められています。
第1巻は「芸能界に潜入したルポライター」の設定と「この世のものとは思えぬあの世」に生きる芸能人の死生観を問うというテーマ。
第2巻はルポライターからさらにキャラを推し進め、ボクが「芸能界に潜入したスパイ」として映画『007』の設定を持ち込み、結果的には大阪のテレビ界のプロパカンダの黒幕を告発するというテーマがあります。
そして、今回は1・2巻のテイストを踏襲しながらも、徹底的に日付と日記に拘り、「文に寄って人と人生をつなぐ」をテーマにした1冊となっています。延べ52章、全650頁という大冊でもあります。
本書は、『週刊文春』に2016年から2017年にかけて60回に渡って連載された下原稿を1号も欠かすこと無く全文掲載し、また挿絵の江口寿史先生のイラストも新たな描き下ろしを含めて60点も採用した本にもなっています。
解説で文庫の付加価値を与え、単行本と区別化
さて、ここまで来るには一筋縄にはいきません。
今、新刊はいかにして作られるのか、ライターのモチベーションの持ち方、出版社巡りのノウハウをご紹介したいと思います。
今年は、この本の前に単行本の『藝人春秋2』の上下巻が『藝人春秋』2・3として文藝春秋から3月9日に文庫化されました。
文藝春秋は大手出版社なので、自社の単行本は期間をおいてシステマチックに文庫化されることが通常です。
しかし、今回、ボクは一般の文庫化にはない異例なことをやっています。
それは文庫解説の1万文字縛りです。
多くの文庫は3千から4千文字の解説が通常ですが、ボクはあえて文庫の付加価値を与え、単行本と区別化したいので解説文の徹底増頁をお願いしています。
『藝人春秋2』はラッパーのダースレイダーさん、『藝人春秋3』は映画解説家の町山智浩さんに、1万文字の徹底解説を売りにしています。ページ数にして20頁弱もの枚数です。
異例ですが、こうすれば単行本を買われている読者も文庫版も買い置きたい動機づけなると思います。
『藝人春秋1』の文庫化の際には、ボーナストラック版として『2013年の有吉弘行』を加えていますし、解説には旬の芸人であるオードリーの若林正恭くんを迎えて、文庫本は単行本の進化系であることをアピールしています。
原稿をリニューアルするためにnoteでの連載を開始
さて出版不況は続く中、新刊出版も著者がアピールしない限りは出版社からはなかなか動きません。『藝人春秋Diary』の原稿は連載終了から3年を経ています。
まず原稿をリニューアルするために今年の正月から「note」の連載を新たに始めました。
note版『藝人春秋Diary』は、週刊誌の連載原稿に「その後の話」を加えた原稿を1記事100円の課金をして再連載しました。
こうすることで、他社の編集者に対して未単行本化の原稿の存在のアピールが出来ると共に、60回分の原稿の推敲、再チェックになります。
この本の単行本化に向かって、まず会合を持ったのが2020年の12月6日です。
場所は紀尾井町の文藝春秋のサロンでした。長年の担当編集者であり、現在ノンフィクション出版部の目崎敬三さんを連れて、小田慶郎週刊文春出版部長に直談判して、ここで自分の単行本化の構想をお話しました。
まず連載を終えた60回分の原稿があること。加筆修正を終えているが、その分量を丸々単行本化すれば約3冊分の原稿量になるので、今後1年をかけて4カ月おきに3冊出版したい意向。
第2案は、文庫がシリーズ化するのであれば、最初から文庫オリジナルとして4カ月おきに『藝人春秋3〜5』で出版させて欲しい旨の2案をお伝えましたが……結局、交渉は不調になりました。
文藝春秋側からの提案としては、今の原稿を念入りに推敲して単行本一冊にまとめあげること。あるいは電子書籍なら3冊分、全文採用は可能であり、すべてをデジタルで発表後、その後にアンソロジーとして1冊の単行本に纏めるという妥協案もありました。
いずれも答えは予想済みだったので一端保留にして、原稿を持って他の出版社と交渉をすることの了解を得て、この日は終わりました。
その後、noteに連載を始めてプレゼンの形を整え、2021年1月20日に講談社に伺いました。
旧知の編集者である「現代ビジネス」の編集長・阪上大葉さんのお迎えで『小説現代』編集長及び出版部部長の塩見篤史さんと面会しました。
ちなみに『藝人春秋』は10年前の「講談社エッセー賞」の候補作にもなっています。塩見さんとは初対面ですが、作者のボクが自らセールスポイントを語ります。
「まず『藝人春秋』と題した『週刊文春』に連載された原稿が、あの『講談社』から出るのはニュース性もあります……」などと。(ちなみに師匠・ビートたけしの最新刊『弔事』は、フライデー事件で因縁のある講談社から出版されています)
話合いは2時間に及びましたが結局、出版確約には至りませんでした。
その後、敬愛するノンフィクション作家の田崎健太さん、柳澤健さんを担当する編集者・樋口健さんを通じて原稿は『光文社』ノンフィクション部に持ち込まれましたが、ここでも最終的には不調に終わりました。
その頃、ミュージシャンの西寺郷太くんに紹介されたのが『スモール出版』です。
ここでは西寺郷太くんの『伝わるノートマジック』を単行本化しています。
この西寺郷太くんの高校生時代のノートの美しさに単行本化を提案したのはボクでした。
社員が3人しかいないスモールな会社は東中野の雑居ビルの一室が編集部ですが、過去にRHYMSTERの宇多丸さんの本や、近田春夫さんの本、町山智浩さん、高橋ヨシキさんの本など、ボクと懇意の人のサブカル本を出しています。
『ノートマジック』の出版イベントの時は、ボクも西寺郷太くんの対談に参加して、ダンカンさんの手書きの企画書の存在をボクが中村社長に示唆して、まさにそのアイデアが『ダンカンの企画書』として単行本化に結実する過程の最中でした。
編集部で中村社長にボクの構想を朗々と語ります。特に喰い付いてくれたのは、江口寿史先生の絵を1枚も落とさないで60枚完全再録するというくだりです。
中村社長も江口寿史先生の大ファンであり、またスモール出版で販促で作っている近田春夫さんのビブラストーンのTシャツを江口先生が密かに購入していることもわかりました。
そして単行本は3冊に分けること無く、1冊の大部の単行本で出版することが決まりました。
博士本人が文庫を千冊買い取り、2千冊の増刷をかけて欲しいと直談判
ここで大事なことは本作が文庫化の際に、もう一度、文春文庫に並ぶことです。
中村社長には、文藝春秋に足を運んでもらった、担当者にご挨拶をしていただき、文庫シリーズの継続をお願いしてもらいました。
その後、文春文庫担当で、以前にも単行本作りで知遇のある斎藤有希子さんに、現在では文庫の2と3が本屋に流通していて、文庫の1が絶版になっている状況を打開したいので、著者本人であるボクが文庫を千冊買い取るので、2千冊の増刷をかけて欲しい旨を直談判して了解を得ました。
今や、千冊の文庫が詰め込まれたダンボールが我が家の玄関に山積みされていますが、これは今後、本屋ではなく自分でサイン本を通販、手売りしていきます。
その後、6月4日には、ボクを『週刊文春』の連載に抜擢してくれた新谷学編集長とボクのYouTube番組『博士の異常な対談』の第1回目のゲストにお呼びしました。
現在では月刊文藝春秋の編集長ですが、ボクは手土産として、『週刊文春』連載復帰のため、何時でも始められるように『藝人春秋』向けの新ネタ250本の見出しを考えて持参しました。(新谷さんは、このコピーを持ち帰り、週刊文春編集長と共有されましたが、結局、『週刊文春』の連載復帰は見送りになりました)
その後、この『藝人春秋』用の250個の見出しは、目崎敬三経由で知己を得た『サンデー毎日』の編集部に提出し、『芸人余録』というタイトルで『サン毎』の連載のお仕事につながっていきます。
FINDERSで博士が連載開始を承諾したわけ
そして、この原稿を書いているFINDERS誌の編集長・米田智彦さんとの関係も長いです。
古くからボクのブログを長年熟読しており、ライブ会場ばかりか、ボクのプライベートの行きつけの店にも現れ、アピールを繰り返し、今年3月14日に、ボクの自宅の屋根裏部屋でのロングインタビューが実現しました。
そういう長期の執念でボクの原稿を待って下さる編集者の申し出を断るはずが有りません。
結果、新たに此処『FINDERS』に連載をここに書かせてもらうことになりました。
そして『藝人春秋Diary』は編集過程を通じて、晴れて10月18日にはボクの新刊として書店に並びます。
しかし、ここからが令和の時代のライターがやるべき作業が待ち受けます。
今や作家が本を書いて、出版社が本を書店に並べて終わりになる仕事は、ごくごく一部の限られたベストセラー作家だけの特権です。
自分でサイン会から飛び込み営業、配信番組とのタイアップ、通販サイトででおまけ付きのサイン本の通販までやる!
ここからドブ板営業で1冊でも多くの人に本を読んでいただくよう、著者本人が宣伝活動の最前線に立ち、ゲリラサイン会から飛び込み営業、配信番組とのタイアップ、ボクの通販サイトである『はかせのみせ』でおまけ付きのサイン本の通販などなどを繰り広げます。
ここまでして1冊の本は世間に届けられていきます。
ひとりのライターの脳の中を揺蕩う原稿の種はやがて発芽し、他人の目に触れますが、書かれてもなお終の読者を求めて漂流しているものです。
その「執着」を捨て去ること無く「終着の浜辺」を探すのがライターと編集者との共同作業なのだと思います。
出版業界は、書き手と黒子である編集者が連携を持ち、例え同業他社でも通じ合い、未刊の文章を世に出すべく、日夜、原稿という胎児を育てていくものです。そして、出版される本は自分たちが手を取り合って出産まで至った可愛い子どものようなものです。
くれぐれも育児放棄しないように子育てのベストを尽くしたいと思います。
どうでしょうか!?
59歳のロートル芸人兼業のライターでも、ここまで水面下で動きます。
若いライターもぜひ、この行程を参考にして下さり、もし、まだ読まれていなければボクの本を「発見」をしてもらえれば幸いです。